QIとは

介護分野におけるQI (Quality Indicators) は、ケアを提供する上で課題となるADLや尿失禁、栄養といったケアの分野ごとの状況を、質の数値として示す指標です。「ケアの質として問題があると考えられる状態」を規定し、その状態に該当する利用者が当該施設にどの程度存在するか、その割合を示したものです。したがって、QIは値が高い (100%に近い) ほど、ケアの質としては低いことを示します。

QI (Quality Indicators)

リスク調整の必要性

しかし、例えば重症者を多く受け入れていたり、十分なアセスメントにより適切に問題を把握している施設では、QIの値が高く (悪く) 出てしまうということが起こり得ます。その場合、他の施設との比較においてその施設は「質の低いケアを行っている」と判断されることになってしまいます。そのため、複数施設の比較においては、各施設におけるリスクを考慮したQIの算出を行う必要があります。リスク調整の方法には、1) 除外、2) 層別化、3) 統計的補正があり (表1)、考え方により取られる方法が異なります。

表1 リスク調整の方法

1) 除外特殊な事情の利用者を分母から除外する例) 末期疾患の利用者、新規の利用者

2) 層別化利用者をQIに該当するリスクの高い利用者 (高リスク者) とそうでない利用者 (低リスク者) に分け、それぞれ別にQIを算出する例) 褥瘡のQIにおいて、寝返りの障害や昏睡状態、低栄養状態、末期疾患を高リスクとし、それ以外を低リスクとする

3) 統計的補正「利用者特性」(個々の利用者のもつリスク) や「施設特性」(施設としてどのような利用者を受け入れているか) から分子の状態に該当する統計的な確率を求め、値を補正する

本研究会では、主にMorrisらのQIを用いて研究を進めています。以下では、MorrisらのQIで採用されている、1) 除外と3) 統計的補正によるリスク調整について説明します。このページで例として用いる、在宅版QIの「11.転倒」の定義を表2に示します。

表2 HC-QI「11.転倒」の定義

HC-QI「11.転倒」の定義

リスク補正によるQIの算出手順

Step 1 実測値の算出まず、分子に該当する利用者がどの程度事業所に存在しているかを示す「実測値」を算出します。在宅版QIの「転倒」の項目では、分母には「寝たきり状態の人」を除く全利用者数を、分子には「過去90日間で実際に転倒した人数」を投入して、実測値を計算します。

実測値の算出

Step 2 予測値の算出次に、リスクの補正を行うために施設単位の「予測値」を算出します。予測値とは「このような利用者のいる事業所であれば、統計的にみて『転倒する利用者はこのくらいだろう』という数値」のことです。この予測値を算出するために、一つひとつのQI項目に関して、リスクとして補正を行うアセスメント項目が決められています。例えば「転倒」のQIでは、利用者特性として「55歳以上」「活動時間が少ない」「不安定な歩行」「関節炎」について、事業所特性として「過去1年間の新規利用者に占める転倒既往者の割合」について補正を行うことになっています (表2)。ロジスティック回帰分析という統計的手法を用いることで、例えば「55歳以上で活動時間が少なく、関節炎のある人が転倒する確率は12%である」など、利用者一人ひとりについてその問題が起こり得る確率を計算することができます。そして、この利用者一人ひとりの値から、施設単位での平均値を算出します。これがその施設の「予測値」となります。

Step 3 補正値(QI)の算出施設ごとに「実測値」と「予測値」を比較し、「実測値」の方が「予測値」よりも小さければ、その施設の利用者が有するリスクから予測されるよりも問題への該当が少ないので、当該QIの分野におけるケアの質が良いと解釈できます。またその逆ならば、ケアの質が悪い可能性があります。しかしこのままでは、利用者の特性や施設としての特性が異なる複数の施設間の比較が難しいため、「実測値」と「予測値」の差に実測値の全体平均を加えることで、QIの「補正値」を算出します。この値が最終的なQI (リスク調整済みQI) の値となり、施設間の比較に用いられます。

補正値(QI)の算出

「実測値」と「予測値」の比較と同様に、「補正値」が「全体平均」よりも小さければ、利用者特性や施設特性から予測されるよりもそのQIで問題となる状態への該当が少なく、質の良いケアが提供されていると解釈することができます。
各施設の転倒QIの「実測値」「予測値」「補正値」を示した以下のグラフをみると、予測値を用いたリスク調整により補正値が変動していることが分かります。

QIの比較:転倒

補正値(QI)の算出

【参考文献】1) 医療経済研究機構:第1章 アメリカの施設ケアの質評価システム 第3節 Quality Indicators.介護保険施設におけるケアの質評価指標に関する調査報告書,平成16年度厚生労働省老人保健健康増進等事業,41-49(2005).2) (財)日本公衆衛生協会:心身の状況に応じたケア提供の実態等に関する資料収集報告書.平成14年度厚生労働省老人保健健康増進等事業(2003).3) 山田ゆかり,池上直己:MDS-QI (Minimum Data Set-Quality Indicators) による質の評価―介護保険施設による試行―.病院管理,41(4):277-287(2004).