健康保険連合組合会
「介護保険施設における医療提供の実態と評価に関する研究」

~平成13年度給付費等臨時補助金事業~

 

事業の目的

米国のナーシングホームでは、高齢者の包括的アセスメントツールであるMDS (Minimum Data Set) による入居者へのアセスメントが義務づけられており、このアセスメント情報を用いて算出されたQI (Quality Indicators) が、それぞれのナーシングホームにおける質改善の取り組みや、高齢者やその家族がナーシングホームを選択する際の情報として活用されています (「【米国】ナーシングホームへのQIによる評価の導入」参照)。

日本においてもMDSは介護保険施設等でのケアマネジメントに活用されており、MDSによりアセスメントが行われている施設においてQIによる質評価を行うことは、施設の質改善に有用であると考えられます。しかし介護保険施設には、介護療養型医療施設、介護老人保健施設、介護老人福祉施設 (特別養護老人ホーム) の3種類が存在しており、それぞれ入居者の状態や施設としての特性が異なるため、単純な施設間比較は困難です。そこで、入居者・施設の特性の違いをリスク調整により補正した上で、介護保険施設の質の評価を行う試みが実施されました。

 

対象

この取り組みにおいて分析対象となったのは、8介護療養型医療施設の18病棟、7介護老人保健施設、12介護老人福祉施設 (特別養護老人ホーム) の入居者のアセスメント情報、合計8,365件です。これらのアセスメントデータを用いて、MorrisらのMDS-QIを算出しました。

 

分析結果

1)リスク調整の効果

図1のグラフで、QI算出結果の例として「13.転倒」を取り上げ、各施設の①実測値、②予測値、③リスク調整済みQIを比較しました。

ここで、①~③の関連について検討します。実測値 (実際に転倒した利用者の割合) がともに7.5%である介護療養型医療施設G (以下、介医G) と介護老人福祉施設A (以下、特養A) についてみると、施設特性 (新規入所者に占める過去30日間に転倒した入所者の割合) や、高齢者の特性 (過去30日間の転倒の有無、過去180日間の転倒の有無、寝たきりでない、徘徊あり) を用いて算出した予測値は、介医Gは7.2%、特養Aは5.4%と、介医Gの方が高くなっています。つまりこの予測値の違いは、介医Gの方が施設特性や入所者の特性から転倒リスクの高い状態にあることを示しています。実測値と予測値からリスク調整済みQIを算出したところ、介医Gは6.3%、特養Aは8.4%となり、特養Aの方が「悪い」結果となりました。つまり、介医Gでは予測値と同程度の入所者に転倒が発生している一方で、特養Aでは予測されるよりも多くの転倒が発生しており、ケアの質が低い可能性が示唆されます。

以上のように、入所者・施設の特性からリスクを調整したQIを算出し比較することにより、より実態に即した評価となる可能性が示唆されました。

図1「13.転倒」のQIの実測値、予測値、リスク調整済みQIの比較

図1「13.転倒」のQIの実測値、予測値、リスク調整済みQIの比較

2)各QIの施設間のばらつき

図2のグラフは、対象施設における20領域のリスク調整済みQIの範囲を示しています。◆は対象施設の平均値を、グラフの上限と下限はそれぞれ最大値と最小値を示しています。ばらつきの程度はQI項目により異なりますが、20項目の最大値と最小値の差の平均は31%であり、対象施設間で大きくばらついていることが示されました。

図2 20領域のQIの分布

図2 20領域のQIの分布

 

QI結果に基づくケアの質改善

各施設に対し、レーダーチャート および個人別実測値・予測値の表を用いて結果をフィードバックし、個別ケアプランの振り返りを依頼したところ、ケアプランや施設としての改善方針に結びついた事例がいくつか報告されました。

例えばある施設では、転倒のリスクは低いと予測されているのにも関わらず転倒が発生した入所者のケアプランを検討したところ、ケアプランに転倒予防が含まれていなかったことが分かりました。そこで、これらの入所者のケアプランに「起立、移動時に見守りや歩行支援者をそばから離さない、段差、滑りやすい箇所では誘導する、履物の観察、検討、下肢筋力強化の運動を週3回実施」などの計画を追加しました。また、「褥瘡の悪化」のQIが悪かった施設では、分子に該当 (褥瘡が悪化) した入所者のほとんどが外泊後であったことが分かり、施設として外泊時は家族に褥瘡の要因をプリントアウトして配布することや、家族での介護方法(体位変換、移動解除、着脱介助など)を家族とともに実施し、助言・指導するように方針を定めることになりました。

以上のようなケア改善の成果に加え、QIによる評価結果は現場職員からも妥当として受け入れられ、個別のケアプランや施設全体のケア方針の改善を検討する上で有用である可能性が示されました。

【参考文献】

1) 健康保険連合組合会:介護保険施設における医療提供の実態と評価に関する研究 報告書.平成13年度給付費等臨時補助金事業(2002).
2) 医療経済研究機構:第2章 日本における質評価の試み 第2節 QIの有用性に関する国内における検証.介護保険施設におけるケアの質評価指標に関する調査報告書,平成16年度厚生労働省老人保健健康増進等事業,65-72(2005).
3) 山田ゆかり,池上直己:MDS-QI (Minimum Data Set-Quality Indicators) による質の評価―介護保険施設における試行―.病院管理,41(4):277-287 (2004).