考察と今後の計画

考察

アセスメントデータについて

本事業では、定期アセスメントの実施を呼びかけ、ほぼ全ての事業所で半数以上の利用者に対して6か月以内にアセスメントが行われていました(図4)。また、アセスメント間隔が12か月以内であった利用者はすべての事業所で8割を超えていました。このことから、定期アセスメントによってより正確な利用者情報をもとにケアの質を評価することが可能であることが示唆されました。しかしながら、より正確な値の算出のためには、定期アセスメントの実施割合をさらに高めることが重要であると考えられます。

HC-QI値の全体平均に関して

全事業所の平均実測値(図5)をアメリカミシガン州およびカナダオンタリオ州のデータと比較しました(図8)。これら平均値のうち、他国の平均値と差が顕著だったのは、「12.社会的孤立(アメリカ40.7%, カナダ24.9%)」「13.認知機能低下(アメリカ41.5%, カナダ36.9%)」「16.コミュニケーション低下(アメリカ30.7%, カナダ15.3%)」でした。
次に、事業所ごとのHC-QIの値は、その範囲(最大-最小) が項目によって3ポイント(3.脱水)から65ポイント(5.尿失禁の悪化)まで幅は異なるものの、大半の項目で各事業所の値は広く分布していました。
以上のことから、HC-QI項目の一部は他国の値とかい離しており、これらの日本での使用は慎重な検討が必要であると考えられます。

図8.平均値の海外との比較

※アメリカ、カナダのデータは“Hirdes, J. P., et al. (2004). Home Care Quality Indicators (HCQIs) Based on the MDS-HC. The Gerontologist, 44(5), 665–679”より抜粋

リスク調整の有用性

図6の事業所⑫と事業所⑭の実測値(実際に分子に該当した人の割合)を比較してみると、事業所⑫では事業所⑭より高く(悪く)なっています。しかし、補正値(HC-QI値)で比較してみると、事業所⑫は事業所⑭より低く(良く)なっています。これは、事業所⑫では実測値が予測値(分子に該当する可能性が高かった人の割合)より低かった一方、事業所⑭では、予測値より実測値が高かったことを反映しています。このように、予測値を用いた補正により実測値が変動していたことから、HC-QIのリスク調整が機能するこが確認され、利用者構成の異なる居宅支援事業所間の評価にも適用可能であることが明らかとなりました。

レーダーチャートによるケアの質の可視化について

HC-QI値を標準化してレーダーチャートにプロットしたことにより、ケアの質が可視化されました。また、全事業所のレーダーチャートを並べてみると(PDF全事業所のレーダーチャート(PDF 289KB))、全く同じパターンを示した事業所はなく、HC-QI値に基づいた比較によって、事業所の得意分野不得意分野が浮き彫りとなったと考えられます。

ケアマネの見直し内容とアンケート結果に関して

ケアマネアンケートの記述内容では再アセスメントの必要性やケアプランの見直しの契機となったとの報告が見られ、具体的な改善策も出されました。HC-QIの有用性に関しては、7割の介護支援専門員が有用と評価しており、我が国の居宅支援事業所において、質の評価改善ツールとして活用できる可能性が示されました。

本事業では、HC-QI値の正確な算出のために利用者に対する定期アセスメントの実施を呼びかけ、ほぼ全ての事業所で半数以上の利用者に対して6か月以内にアセスメントが行われていました。しかしながら、より正確な値の算出のためには、定期アセスメントの実施割合をさらに高める必要があります。今後は、HC-QIの結果を時系列的にフィードバックして、ケアの質の改善をアセスメント担当者に伝えることで、内発的動機を高め、定期アセスメントのさらなる向上につながる、というようなポジティブサイクルの構築を支援していきます。
また、より多くのアセスメントデータを用いることで、より正確な平均値を得ることが重要であると考えられるため、今後は、参加事業者を拡大し、本事業をさらに発展させていく計画です。

このページの先頭へ