事業の概要

背景

近年、介護サービスの質が問われるようになり、利用者の要介護度の維持・改善に基づく特定事業所加算の導入など、アウトカム評価への関心が高まっています。しかし、これまで日本には標準値となるエビデンスが蓄積されておらず、アウトカム評価を質の改善につなげる具体的な方策も示されていないのが現状です。標準値となる客観的な指標の開発が求められていますが、体系的な評価モデルを短期間で構築するのは困難とされています(公衆衛生協会「介護サービスの質の評価の在り方にかかる検討に向けた報告書」2010)。

このような背景のもと、介護サービスの質を評価する様々な取り組みが行政主導で進められていますが、以下のような問題点が指摘されています。

  • 1.評価で求められる資料と業務の運用帳簿とがリンクしていないため、評価に伴う事業者側の作業負担が大きい(例:評価のためだけの評価が横行)。
  • 2.評価内容は人員配置や組織理念、マニュアルの整備状況などに限定され、実際のケア内容や利用者の状態変化等のアウトカムが全く扱われていない。
  • 3.[リスク調整に基づいた評価が行われていないことを入れる]
  • 4.評価結果を事業者がケアの質の向上に活用することが困難である。

HC-QI(Home Care - Quality Indicators)による
ケアの質評価・改善のモデル

一方、HC-QIによるケアの質評価・改善のモデルを用いると、上記のような問題点を解決することができると考えられます。

ケアプラン作成時のアセスメントデータを二次的に利用する

HC-QIとは、MDS-HC(現インターライ方式ケアアセスメント)のアセスメントデータから算出されるケアの質を表す指標です。MDS-HCとはケアマネジメントにおいて適切な支援計画 (ケアプラン) を作成するために、高齢者の状態を身体的・心理社会的側面から包括的にアセスメントするためのツールです。MDS-HCによるアセスメントの結果を、居宅介護支援事業者の質の評価にも活用するため、ケアの質の評価・改善のプロセスをひとつのツールで実施できることが大きな利点のひとつです。

ケアのプロセスやアウトカムに関する指標を用いて評価する

HC-QIは、ケアの方法によって差がつくもの、ケアしないと後に重篤な結果を起こすものとして50を超える候補から選ばれた22の項目からなります(図1)。したがって、HC-QIによる評価モデルではケアのアウトカムを用いた評価が可能です。

図1.HC-QIの22項目

リスク調整を用いた指標の算出

HC-QIの算出には、「リスク調整」という手法を用います。これは、単純に事業所の全利用者の中にどのくらい状態が悪い人がいたかだけではなく、どのくらい状態が悪くなるリスクが高かった人がいたかを考慮に入れてケアの質を比較することができる方法です(HC-QIの算出方法に関して詳しくはこちら)。この手法により、より客観的で公平な評価が可能です。

評価結果が特定の利用者のケアプランの見直しにつながる

評価結果には、事業所単位の相対的な成績だけでなく、優先的にケアプランを見直すべき利用者の情報も示されます。HC-QIの22項目それぞれに関し、利用者ごとにリスク予測値が示されます。これにより、リスクが低かったにも関わらず問題が起きてしまった利用者を特定し、優先的にケアプランを見直すことが可能です。

HC-QIによるケアの質評価・改善モデルの利点

  • (1) HC-QI値の算出には、ケアプラン作成時のアセスメントデータをそのまま活用するため、評価のための新たな作業が発生せず事業者負担が少ない。
  • (2) 評価内容は、プロセスやアウトカムに関するケアの専門技術的な側面を指標とした22項目から算定される。
  • (3) 指標の算定にはリスク調整を用いており、より公平な比較が可能となる。
  • (4) 評価結果には、事業所単位の相対的な成績だけでなく、優先的にケアプランを見直すべき利用者の情報も示されるため、具体的な改善支援のツールとなり得る。

目的

本事業では、HC-QIによる質の評価・改善モデルを我が国の居宅介護支援事業者に適用し、その客観的指標としての有用性を検証することを目的とします。具体的には以下の4点を行います。

  • ① アセスメントデータを二次利用して指標を算出する仕組みを構築する
  • ② 指標を算出して参加事業者におけるケアの質の平均値を明らかにする
  • ③ ケアの質の評価においてリスク調整が有効であるかを検証する
  • ④ HC-QIに基づいたケアプランの見直しが現場の介護支援専門員にとって有用であるかを検討する

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